コラム
【解説】適正な労務管理とは? 厚生労働省のガイドラインから読み解く『テレワーク導入時の労務管理』
新型コロナウィルスによる緊急事態宣言が発令され、1ヶ月以上が経過しました。
既に緊急事態宣言が解除された都道府県もありますが(2020年5月23日時点)、「今回を機に今後も週に何日かはリモートワークを推奨する」「新型コロナウィルスの第二波が発生するリスク対策として本格的にリモートワークを導入する」といった企業も増えているのではないかと思います。
一方で、4月から5月にかけて急遽リモートワークを導入したため、制度や仕組みなどがきちんと整っていない企業も多いのではないかと思います。緊急事態宣言解除後、アフターコロナという時代において、本格的にリモートワークを導入することを考えたときに、「テレワーク時の労務管理はどうすべきなのか」「セキュリティ対策を十分に行うにはどうしたらよいか」といった課題に直面されている企業も多いのではないでしょうか。
そこで、本コラムでは総務省や厚生労働省が公表しているガイドラインの内容をまとめ、数回にわたって解説させて頂きます。自社のテレワーク導入に際して、ご参考にして頂ければと思います。
今回は厚生労働省が公表しているガイドラインの内容を解説します。
出典:厚生労働省「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」
労務管理とは?
まずはじめに労務管理の業務内容を改めて解説します。
労務管理とは、従業員の労働条件や労働環境を整備・管理する仕事を指します。具体的には、就業規則の作成・管理、労働契約や条件の管理、従業員の勤怠や給与の計算・管理、福利厚生の管理などです。
なお、労務管理とセットで会話されることが多い「人事管理」は、従業員の雇用から退職するまでを管理する仕事です。人事管理には従業員の採用、異動、人事考課などの業務が含まれます。
テレワークでは、働く場所が変わることで従来の就業規則では定義しきれない内容が出てくることもあるため、見直しが必要になるかもしれません。また、労務管理はただ管理する仕事ではなく、従業員がより働きやすく、より生産性高く働くための環境を整備することも重要な任務です。そのため、テレワークにおける適正な労務管理について、解説させていただきます。
テレワークについて
つぎにテレワークの定義についても整理します。
日本テレワーク協会によると、テレワークとは以下のように定義されています。
テレワークとは、情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。
(「tele = 離れた所」と「work = 働く」をあわせた造語)
※一般社団法人 日本テレワーク協会より
場所や時間にとらわれない働き方をテレワークと呼ぶため、非常に広義です。
そこで、テレワークによる働き方を分類すると大きく3つあります。
(1)在宅勤務
自宅にいながら仕事をする働き方です。新型コロナウィルスの拡大により増えた働き方ではないでしょうか。
通勤時間がなくなるため、時間をより有意義に使うことができ、満員電車から開放される点が在宅勤務の大きなメリットです。
一方で、自宅のリビングで仕事をする、赤ちゃんがいるため会議のときだけ外に出る、といったように働く場所として自宅を捉えると、十分な環境が整っていない家庭もあります。
(2)モバイルワーク
ノートPCやスマートフォンを活用して、取引先や移動中に仕事をする働き方です。
セキュリティ面は置いておき、電車の車内やホームでノートPCを広げて仕事をしている光景も不自然ではなくなりました。
(3)サテライトオフィス
勤務先以外のオフィススペースで仕事をする働き方です。最近では、本社とは別で地方にサテライトオフィスとして拠点を作る企業もいます。
常時勤務するわけではないため、数社共同で使うシェアオフィスやレンタルオフィス、コワーキングスペースなどをサテライトオフィスとして使用するケースが多いです。
では、テレワーク時の労務管理について解説していきます。
労働基準関連法令におけるテレワーク時の労務管理について
テレワークを行う労働者に関しても、労働基準関係法令が適用されます。
そこで留意すべきは「労働時間」です。テレワークを行う労働者に対する労務管理として、適切な労働時間管理を行う責務があります。
労働時間を適切に把握する方法
管理監督者等を除いた労働者に対しては「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)に基づき、適切な労働時間管理を行わなければいけません。
労働時間を管理する方法として、「パソコンの仕様時間の記録等の“客観的な記録”によること」が挙げられています。
オフィスであればタイムカードやICカードで客観的な時間を記録することができます。テレワークの場合は、パソコンの電源を付けている時間や特定の社内システムへログインした時間を記録し、労働時間を管理することができます。
しかし、時間を自動的に集計できる仕組み・システムが必要になるため、そこまでの対応はできない企業も多いと思います。
そこで、自己申告制で労働時間を把握する、というやり方によって労働時間を把握することになります。例えば、勤怠管理システムへアクセスして打刻する、始業・終業を逐一連絡する、といった方法です。
自己申告制の場合は、以下に留意する必要があります。
・労働者や管理者に対して十分な説明を行うこと
・自己申告により把握した労働時間と、パソコンの使用時間等から把握した時間との間に著しい乖離がある場合は、調査して労働時間の補正を行うこと
・自己申告できる時間の上限を設けること(36協定で定めた時間以上は登録できないようにする等)
休憩時間や中抜けの扱いなど、テレワーク特有の課題について
◯ 休憩時間について
「在宅勤務なら仕事の合間に手を休めているかもしれないし、休憩を与えているものとみなしてもよいのではないか?」
と考える方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、これはNGです。
例えテレワークであっても、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、労働時間が8時間を超える場合は60分以上の休憩を与えなければなりません。業務から離脱しやすい環境にいることと、休憩を与えることは異なります。
なお、労働基準法では、原則として休憩時間を労働者に一斉に付与することを規定していますが(昼休みの時間が決まっているのはこの規定によるものです)、テレワークを行う労働者については、労使協定により、一斉付与とせず個別に休憩時間を取ることが可能です。
◯ 中抜け時間について
テレワークで在宅勤務をする際、日中の1時間を使って役所へ行ったり、夕方の1時間で家事を行うことがあると思います。一定程度労働者が業務から離れる時間(いわゆる”中抜け時間”)については、以下2つの対応が可能です。
(1)休憩時間として扱う
開始と終了時間を報告し、例えば終業時間を1時間繰り下げることで、日中の1時間を休憩時間として扱うことが可能です。
ただし、始業・終業時刻の変更が行われる旨を就業規則へ記載しておく必要があります。
(2)時間単位の有給休暇として扱う
前提として、労働者と使用者との間で締結される労使協定において、時間単位の有給休暇取得を可能とする必要があります。
フレックスタイム制にすれば労働時間の管理が不要?
フレックスタイム制であれば、1日単位の細かい時間まで管理しなくてもよいのではないか、と考える方がいるかもしれません。しかし、フレックスタイム制は、あくまで始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる制度であるため、労働者の労働時間の把握について適切に行わなければいけません。
この点は勘違いされる方もいると思いますので、十分注意が必要です。
フレックスタイム制とは、清算期間やその期間における総労働時間等を労使協定において定め、清算期間を平均し、1週当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内において、労働者が始業及び終業の時刻を決定し、生活と仕事との調和を図りながら効率的に働くことのできる制度です。(厚生労働省より)
以上のことから、テレワークであっても業務に費やした時間を記録し、労働時間の状況を適切に把握する必要があると分かりました。また、当然ですが、時間外労働・深夜労働・休日労働に対してはオフィス勤務のときと同様、割増賃金の支払いが必要ですので、労働時間の管理をしなければいけません。
時間の把握方法については新しい仕組みやシステムを導入する必要があるかもしれませんが、適切に労働時間を管理することで、必要に応じて労働時間や業務内容について見直すことができるというメリットもありますので、仕組みが整っていない企業の方はご検討いただくことをオススメいたします。
テレワークによる在宅勤務になったことで発生しがちな事象は「長時間労働」です。いつでも仕事ができる環境にあるため、仕事量が多い人はついつい長く仕事をしてしまう傾向にあります。厚生労働省が推奨する長時間労働対策を解説します。
適正な労務管理に向けた長時間労働対策
(1)メール(チャット)送付の抑制
上司から時間外、休日または深夜に連絡をしないこと。
(2)システムへのアクセス制限
深夜や休日は外部から社内システムへアクセスできないように設定すること。
(3)時間外・休日・深夜労働の原則禁止
会社のルールとして時間外・休日・深夜労働を原則禁止と明確にする。
(4)長時間労働を行う労働者への注意喚起
長時間労働が生じるおそれのある労働者や、既に生じている労働者に対して、労働時間の記録や勤怠管理システムを活用した注意喚起を行うこと。
テレワークで気になる労務管理の関連事項
最後に、テレワークにおいて気になる点をいくつかピックアップして解説します。
こちらも厚生労働省のガイドラインに明記されている内容です。
テレワークにおける災害は労災保険の対象になるのか?
テレワークにおける災害は業務上の災害として、労災保険給付の対象になります。ただし、私的な行為などの業務以外が原因であるものは対象外となります。
通信費用などテレワークに要する費用負担はどうなるのか?
通常の勤務と異なり、特に通信費用(WiFiなどのネットワーク使用料)は労働者が負担を負うことがあり得ます。労働者が負担するか会社側が負担するかは、事前の協議によって定めることになっています。その際、会社側が負担する場合における限度額や、労働者が請求する場合の請求方法なども定めておく必要があります。
なお、労働基準法より「労働者に費用負担をさせる場合は、就業規則に規定しなければならない」とされています。
テレワークを行う労働者に対する教育はどのように行えばよいのか?
総務省が公表している「テレワーク セキュリティガイドライン」を活用する等して、テレワークを行う上での情報セキュリティ対策について十分理解を得ておく必要があります。
弊社のコラムでも取り上げていますので、気になった方はご覧になっていただければと思います。
・【解説】総務省のテレワークセキュリティガイドラインから読み解く『テレワークを行う6つの方式』
https://eggsystem.co.jp/column/20200524-telework-security/
・【解説】総務省のテレワークセキュリティガイドラインから読み解く『セキュリティ対策内容』
https://eggsystem.co.jp/column/20200525-security
【ご参考】テレワーク総合ポータルサイト
ガイドラインだけでなく、厚生労働省が運営している「テレワーク総合ポータルサイト ( https://telework.mhlw.go.jp/ )」に分かりやすく、テレワークに関する情報がまとめられていますので、ご参考までにご覧頂くと導入を推進しやすいと思います。
テレワーク導入時の労務管理まとめ
本コラムでは、厚生労働省の「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」を解説させていただきました。
テレワークを本格的に導入する場合、「仕組み(システム)」「ルール」「文化」のそれぞれをバランス良く組み立てていく必要があります。そして、労働者・社員の理解を得ながら進める必要があるため、社内の人材だけで対応するのは難しいことがあるかもしれません。
「テレワークを本格的に導入したいけれど、対応できる人員がいない」
「具体的にどうやって進めていけばよいか分からない」
「セキュリティの懸念があり、テレワークを推進できていない」
こういった課題をお持ちでしたら、弊社のリモートワーク導入サービスをご活用頂ければ幸いです。ご相談も受けておりますので、お気軽にお問い合わせください。
◯ リモートワーク導入サービスの実績
在宅から社内にアクセスできるようVPNを導入、セキュリティ対策として端末認証ツールを導入。リモートワーク時のセキュリティ教育を社員へ実施。
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